「セカンドオーダー」とは
「セカンドオーダーの経営」でいうところの「セカンドオーダー」とは何だろうか。
もちろん、私が適当な思いつきで名付けているわけではない。社会学史に名を刻む超ビッグネーム、ニクラス・ルーマンが論じた社会システム論における「セカンドオーダーの観察(the second-order observation)1)」をふまえての由緒正しい名称である。
「セカンドオーダーの経営」が実際の経営判断・意思決定の場面において優れた見通しを提供できるのは、「セカンドオーダーの観察」という概念が拓く認識力の恩恵によるところが大きい。
以下、「セカンドオーダーの観察」とは何なのかを説明したい。
ファーストオーダーとセカンドオーダー
「セカンド(2nd)」オーダーというからには、当然「ファースト(1st)」オーダーが存在する。
日常用語でざっくり言ってしまえば、以下のようになる。
- ファーストオーダーの観察:世界とは何か(what)に焦点を当てている。多くの経営理論はファーストオーダーの観察に分類される。
- セカンドオーダーの観察:ファーストオーダーの観察者が世界をどのように(how)見ているのかに焦点を当てている。
頑張って端的にまとめたつもりだが、抽象的でピンと来ない方が多いと思う。具体例で説明してみよう。
ファーストオーダーの観察の事例として、有名な経営戦略理論の「SCP理論(structure-conduct-performance theory)」をとりあげてみよう。様々なビジネスシーンで「差別化」が強調されるのは普通の光景だと思うが、その差別化戦略を世に広めた源流がSCP理論である。
すごい影響力を持つ理論なのであるが、今はSCP理論の解説がテーマではない。そこで思い切って乱暴に言ってしまうと、SCP理論とは「差別化すれば価格競争に巻き込まれなくなって儲かる」という理屈を上手に述べた理論である。
このSCP理論は、「どうすれば企業は儲かるのか」という問いに対するひとつの答えとして「差別化する→儲かる」という因果関係を主張している。「世界にはそういう因果関係が存在している」という主張なので、これはファーストオーダーの観察である。
一方、セカンドオーダーの観察者は、このSCP理論が主張する「差別化する→儲かる」という因果関係が本当かどうかということについては、とりあえず脇に置いておく。セカンドオーダーの観察者が興味を持っているのは、SCP理論による「世界の認識の仕方」である。
SCP理論においては「差別化する→儲かる」という主張をするわけだが、裏を返せば「差別化しない→儲からない」ということである。この「差別化する/差別化しない」という区別と「儲かる/儲からない」という区別との結びつきが、SCP理論による「世界の認識の仕方」の中核である。
したがって、『SCP論者(=ファーストオーダーの観察者)は全ての商品やサービスを「差別化されているか差別化されていないか」という観点から認識することになる』、ということが「セカンドオーダーの観察者」には見えるのだ。